組合結成を阻害する労働組合法の大問題(少人数組合でも公認会計士を必要とされる不利益)

一般的にはあまり論議になることはないのですが、労働組合作りの相談を受けるときなどに問題となることに、労働組合法第五条2項の七には以下のような条文があります。

「すべての財源及び使途、主要な寄附者の氏名ならびに現在の経理状況を示す会計報告は、組合員によって委嘱された職業的に資格のある会計監査人によって正確であることの証明書とともに、少なくとも毎年1回組合員に公表されること」

何気なく読み飛ばしてしまうところでもありますが、ここが実は大問題個所なのです。

労働条件向上、労働環境改善のために会社に組合を作ろう!あるいは地域に一人でも加入できる組合を作ろう!と思った人が、キチンと法的に問題が無い組合を作ろうと思うのは当然のことです。しかし・・・、そこにこの条文が立ちはだかることがあるのです。

労組法の条文にある「職業的に資格のある会計監査人」とは、公認会計士のことです。現行の労働組合法では、労働組合が法に適うためには(つまり、会社による不当労働行為について、労働委員会によって救済を受けるなど)、これが労働組合の条件とされているのです。

ところで、公認会計士の監査報酬とは一体いくらでしょうか? 公認会計士のホームページなどを見ると少なくても10万円はかかるのです(だいたいは最低でも30万円程度)。それは、この職業的資格のある会計監査人が対象とする会社の場合を見れば分かります。会社法では、職業的会計監査人(あるいは監査法人)を必要とする会社について、以下のような定めがあります。

1.資本金が5億円以上。2.(貸借対照表の)負債が200億円以上

つまり会社法では、その会社のバランスシート(企業会計)の規模が200億円以上の会社について、公認会計士等の監査を求めているわけです。

しかし、労働組合法では、10人の組合(おそらく年間の予算50万円程度)でも、上記のような大企業同様に公認会計士の監査を受けることを求めています(あるいはその監査を受けることを規約に定めるように求めています)。だからたとえば10人の組合の組合の場合、組合費の少なくとも20%は公認会計士に支払われることになるのです! とんでもないことです。(たとえば10人×組合費月額4000円×12ヶ月=36万円で、むしろ10人の場合は公認会計士に支払う金額を捻出するために組合費月額を4000円程度以上にする必要があります)

なぜ、労働組合(労働者)にとっての不利益が労働組合法にあるのでしょうか?

労働組合法ができた頃の労働組合は大規模組合が多かった(一つの職場の従業員数も多かった)? それもあるし、そもそも、労働組合を自主的に職場段階で作るという発想がなく、総評とか同盟とかの巨大労働組合組織の傘下に入るから(支部組織など)、その大組織が公認会計士の監査を受けていれば良かった? そんなところでしょうか?

しかし、いまは、一つの職場でも数十人の従業員というのが当たり前であり、なおかつ、そのすべての人が労働組合結成に当たって加入することも少ないのです。10人以下、数人の労働組合だって多くあるのです。

日本国憲法第28条には「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する」とあります。しかし、その日本国憲法28条を具体化する労働組合法に、少人数では労働組合が実質的に運営できないような、「公認会計士」条項があるのは極めて不当であり、労働組合法がこの憲法28条を疎外しているともいえます。本来公正な会計処理と会計監査は、労働組合の民主的運営の前提ですが、しかし、このような明らかにおかしな条項は早急に改められるべきであると思います。

公認会計士としても、このような非現実的な条項でなくて、会社法のように、たとえば「組合員規模2000人以上」「バランスシートで1億円以上」、あるいは「事業収入(組合費以外)が5000万円以上」などと定めがあった方が、実際の監査件数も増えて良いのではないか?と思いますし、そのくらいの規模になれば、会計処理規模が大きく、労働組合の側(会計担当サイド)でも、自然と公認会計士の監査を必要にすると思えます。

では、現実に数名の労働組合はこの労組法の問題箇所があるから結成できないのか?あるいは、会社(使用者)からの、不当労働行為にあった時、労働委員会の救済を受けられないのか?というとそうではありません。労働組合結成とその活動は憲法28条によって保証されている権利です。実際には、労働組合の実態によって現実的に判断されると思います。

どう考えても理不尽で、労使間の格差が甚だしい(会社法との関係で)、労組法の「公認会計士条項」問題。このようなことが放置されていて、現実に職場で組合ができにくくなっているのであれば、その責任はこの問題をキチンと取り上げてこなかった既存の労働組合運動の側にあると思えます。


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